防寒対策 – ミドルウェアとインナーウェアの選び方
不要な買い物を防ぐためにも、自身の体質や目的を意識しながら防寒具を揃えていきましょう。
問.次の服を重ね着してください。
本題に入る前に防寒センスとファッションチェックをしてみましょう。
あなたはこれからバイクで街乗りします。
ウインタージャケットの下に着るものを3つ衣装箱から取り出しました。
1.ユニクロのヒートテックインナー
2.チェックのシャツ
3.混毛30%のセーター
さて、あなたはこれらをどのように重ね着しますか?
A.シャツの上にセーターを着る
B.セーターの上にシャツを羽織る
AとB、それぞれの重ね着で実際に走行してみると、
Bの方が暖かいと感じました。
ライダーがこれらの衣料を防寒具として着合わせする場合Bが正解です。
ファッション的にはどうでしょうか?
Aは30年前の中学生みたいです
かたやBの方は、あまり見慣れない重ね着ですが、ちょっとオシャレな感じがしますね。
セーターを上に着るスタンダードな重ね着と固定概念にとらわれない重ね着。
バイクの為の防寒具としても、ファッションとしてもBの重ね着が正解です。
ライダーの防寒対策は既成概念を取り除くことから始まる!
ライダーの防寒は状況が特殊すぎて、登山や現場仕事での防寒の常識ではカバーしきれるものではありません。
既成概念や固定観念といったものをなくして、実際に自分の身に起こっている現象を把握することが大切です。
バイクの防寒は、考え方やインナーウェアとミドルウェアの組み合わせ次第で、本当に沢山の正解や不正解が生じてしまう複雑なところがあります。
たとえば、本当に防寒性能だけを考えた最強防寒装備をあなたに提案したとします。
しかし本当に防寒以外眼中にない方にとっては正解かもしれませんが、ファッション性も妥協できない別の方にとっては最悪の不正解かもしれません。
人によって捉え方が違うのですから、防寒とはかくあるべき!といった体系だったものやフローチャートを描くことは非常に困難です。自分流をみつけなければいけません。
このページでは、あなた自身がインナーウェアとミドルウェアを選ぶ際に、押さえておくべきバイク乗り特有のTIPSを紹介します。
ウェアを選ぶときに
「なんか今のウェアは寒い。別のをためしてみよう!」
では、お金の無駄遣いになりがちです。
このページを一通り目を通しておけば、あなたがウェアを選ぶときに、ちゃんと明確な目的をもって選べるようになると思います。
このページが快適な極寒バイクライフの一助になれば幸いです。
防寒は3つのテーマに絞れ!
ここでは防寒ウェアで考えるべき要点をこの3つに絞ります。
保温性、防風性はわかりやすいと思います。防寒装備に取り入れようとして間違いが起きやすいのが汗冷え対策です。
透湿性と吸汗速乾性が必要だと、そこかしこ言われています。
重要視される理由は、長時間走行時の汗冷えの原因がウェア内部の湿度や発汗だからです。
なんとかしたいのは汗冷えであり、透湿素材は汗冷え対策の一手ではありますが唯一絶対の方法ではありません。透湿性素材が必要というのは先ほどの悪しき既成概念にほかなりません。
汗冷えをしない為にあなたが何かしらの工夫を発明できたとしたら、はたまた、あなたが汗冷えを起こしにくい体質や状況でいられる方なら、ゴアテックスの様な透湿性のある素材も必要ないのです。
だからあくまでも汗冷え対策。
何がなんでも、絶対に透湿性が必須!というわけではないのです。
確かにゴアテックスはすばらしい素材で汗冷え対策に効果的ですが、ゴアテックスジャケットを着ているから大丈夫なはず!といった思い込みを捨てることから始めてください。
さて、防寒対策の3つのターゲットのうち、どれを重視して対策すべきなのかは、体質と走行シーンで違ってきます。
はじめて防寒具を揃える場合、アウターの防風性能、ミドルウェア、インナーウェアによる保温性能を十分なものにするところからスタートしましょう。
近・中距離走行をカバーする『基準防寒具』を揃えよう!
革ジャンにセーター、アンダーは防風性皆無のジーパン一枚、よくてタイツを着こむ程度。
極寒時にはオーバーパンツ代わりにレインウェアのアンダーを履きこんでしのいでいました。
セーターやタイツの保温性と革ジャンの防風性だけでなんとかなっていたんですね。
その頃に比べて現在は、極薄高保温素材、防風透湿素材、発熱保温素材といった高機能素材や電熱装備が多数登場し、昔は考えられなかった極寒時の長時間走行に威力を発揮しています。
保温性と防風性については現在は各社さまざまな製品が出そろい、それほどお金を掛けなくても、高いレベルの保温性と防風性を実現しやすい環境にあります。
まずは安価に揃えられる装備から入って、保温性と防風性を十分にするところからスタートしましょう。それは立派な近・中距離走行をカバーする防寒装備です。
長時間走行やより極寒環境用の装備を考える際にも、基準防寒装備を必要に応じてアレンジことで実現することができます。
基準防寒具ー汎用性の高いオススメの組み合わせ
アウターウェア・・・防風性の高いバイク用ウインタージャケット
ミドルウェア・・・フリース
インナーウェア・・・裏起毛インナー(ポリエステル系の化繊またはウールが多めに入っているもの)
これらを選んだ目的は第一に動きやすさです。フリースや起毛インナーは、ほどよく伸縮性があり値段も手頃なうえ保温性がかなり高い部類のウェアです。
起毛自体、防寒を考える上で非常に重要な要素になります。寒冷地の動物が寒さに強く、凍傷にもかかりにくい秘密はその体毛にあります。
獣(けもの)とは毛のモノ。実は寒冷地の動物は表面に見えている体毛の下に、保温を目的とした高い密度で柔らかい下毛が生えているのです。
起毛インナーやフリース表面は、ちょうど寒冷地動物の下毛の役割を果たしてくれます。
1.侮れない起毛インナーの保温力
厚手のものを選びましょう。[amazonjs asin=”B07CV8R3QL” locale=”JP” title=”(テスラ)TESLA 防寒・保温 長袖ハイネック 冬用起毛 コンプレッションウェア パワーストレッチ スポーツシャツ UVカット・吸汗速乾 YUT32-DGY_XL”]起毛タイプは保温性に非常に優れています。
フリースの起毛仕上げでも十分暖かいのですが、密度が高く、毛足の長い、動物の下毛の様なインナー表面を皮膚と密着させることで特に高い保温性を発揮、確実なデッドエア層を作ることができます。
身近でそろえるなら、しまむらの『裏起毛インナー』がかなりオススメ。
最近試したのですが、速乾性高く、汗冷えをシャットアウトしてくれます。
林道やコース走行など、汗冷えに悩まれる方はぜひ。
両面起毛タイプも外側の起毛が一見意味がなさそうに思えますが、インナーの外側にもデッドエア層を形成しますのでさらに高い効果が見込めます。
インナーはサイズが肝心です。大きすぎると本来の保温効果を発揮できません。
サイズ選びはジャストフィットを狙いましょう。伸縮性があって密着できれば言う事なしです。
2.アウターを脱いでも街歩きできるフリースは万能防寒ウェア!
無風状態の街歩きではアウターとして使われていることも多いことから、その保温性の高さがうかがえます。ユニクロのフリースなどは意外と防風性もあるので、保温性に特化しすぎた高価なフリースよりもバイク用途に向いている場合があります。
アウトドア用の数万円するフリースは速乾性に優れています。
高額フリースは汗冷えの対策としてはたいへん有効なのですが、インナーとフリースの間にプロテクターを仕込むなど、実は工夫次第でどうにでもなります。
最初はお手頃価格の製品でかまいません。[amazonjs asin=”B079D35789″ locale=”JP” title=”ザ・ノース・フェイス マウンテンバーサマイクロジャケット Mountain Versa Micro Jacket メンズ ソーダライトブルー 日本 M (日本サイズM相当)”]
・走行により冷やされたウインタージャケットの冷たさが肌に伝わらないこと
・ウェア内部を通る冷気に耐えられる程度の防風・保温性能を兼ね揃えること
バイク用途において、ミドルウェアにはこのふたつが求められます。
フリースで十分ではないと感じたら、チタンシンサレートや光電子素材を使った高機能ミドルウェア(インナージャケット)を検討してみましょう。
部位毎の防寒レベルを揃えよう-人体のラジエーターはどこ?
それは筋肉と内臓です。とりわけ筋肉の発熱量が大部分を占めています。
全身の筋肉が熱を発生させ、血管を通り、心臓へ送り込まれます。
心臓は全身から熱が集約される場所であり、心臓自体も心筋と呼ばれる筋肉の塊といっていい臓器ですから、当然人体の中で最も高温となる場所なのです。
もっとも高温となる心臓はバイクに例えるならエンジンブロックのようなものです。
体の発熱原は判りました。
では人体の放熱場所、ラジエーターはどこでしょうか?
それは、空気に触れている皮膚表面です。しかもこの人間のラジエーターは意外にも生物界で最も優れたラジエーターといえる代物なのです。
皮膚表面の過剰な血流による放熱の仕組みは、動物の中で人間が最も発達しています。
つまり、人間の体は、冬場でも大型オイルクーラーとラジエターを装備しており、オーバークール状態なのです。
実は人間というのは暑い場所に適応した動物だったのです。
この大型ラジエーターを搭載したまま寒冷地を乗り切るために、人体は放熱を抑えるために、皮膚表面の血流を少なくし、温度の低下を防ごうとします。これは基本的な機能ですので血流が悪くなること自体に害はありません。皮膚表面は酸欠に強くできていますから。
ここまでが人体の発熱・放熱の仕組みです。少々乱暴でおおざっぱな気もしますが、おおむねこの通りです。
上のような理屈ですから、人体で最も高温なのが心臓付近で、指先・足先に近づくにつれ温度が低くなります。これは非常にわかりやすい理屈です。
特に指先・足先には大きな筋肉もないので筋肉による発熱もあまり期待できません。そもそもライダーは発熱するような運動、ランニングの様な積極的な筋肉運動を行いませんしね。
ここで極寒時の走行シチュエーションに戻ります。体感温度がマイナス30度以下の状況を考えてみてください。
胴体は丸みがあり、体積に対して表面積は小さいです。
それでは肩から先、ヒザから先はどうでしょうか?
胴体に比べて、体積に対して明らかに表面積が大きいですね。
放熱は表面積に比例し、蓄熱量はほぼ体積に比例します。
つまり全身が均一に冷やされる環境であれば、頭部や胴体は実は最も防寒レベルを下げられる部位であり、肩や膝から先は最も防寒レベルを高くする必要がある部位なのです。手から5本に分かれて表面積を稼いでいる指なんて、放熱するためにあるような形状といえます。
ぜひ一度体がどこから冷えてくるのか、チェックしてみてください。
トレール、ネイキッド、クルーザー、フルカウルツアラー、乗っているバイクによっても変わってくると思いますが、おそらくそれは肩から先、大腿部・ヒザから下のどこかからやってくると思います。
その最初に冷えてくる場所に対して何らかの対策を施してみましょう。
放熱量の多い場所の防寒対策により、体温を可能な限り全身で均一に保つことで、快適性は飛躍的に向上します。
夜間、気温は氷点下付近、200km以上無休憩・高速長距離走行の際に抑えておきたい対策
わりとよくあるシチュエーションの中で、とりわけ過酷な状況を想定してみましょう。今回は電熱ウェアをあえて選択肢に入れずに取るべき対策を紹介します。
1.防風性能-アウター(ウインタージャケット)を正しく装着する
多くのアウターは100km/h程度の風に対して十分な防風性能をもっています。
インナー・ミドラーの保温・断熱性も十分のはずなのに、それでも寒いときの原因は、風圧に押されたアウターが肺のように呼吸し、冷気を吸い込んでしまう場合が考えられます。
冷気流入口は主に、首周り、袖周り、アウター下部の腰回りです。
アウターを正しく着て、冷気の流入を防ぐ事が肝心です。
2.ウェア内部に発生する冷気の流入対策-インナー・ミドラーを体に密着させる
アウターを正しく装着しても完全に冷気の流入を止めることは非常に困難です。
その為、ミドルウェアにもある程度の防風性を持たせた方がトータルバランスが良くなる傾向です。
最初の例にあった、セーターの上にシャツを着ることにも通じますが、インナーウェア、ミドルウェアを可能な限り体に密着させ、ミドルウェア表面にもある程度の防風性を持たせるように意識する必要があります。
手持ちの衣料でなんとかしようとするなら、重ね着による隙間を保温素材で埋めること(モコモコ化)がどうしても必要になりますが、重ね着は透湿性の問題を引き起こします。
裏技的な方法として、レインスーツを重ね着しウインドストッパーとして利用する方法があります。かさばるので車載バッグやハードケースの装備は必要ですが冬場は常時持ち運ぶことで対応できる環境が広がります。
3.汗冷え対策-透湿素材の活用と換気による抜本的な対策
汗冷えとは、汗や皮膚から発生する水蒸気がアウターより内側、体表面より外側の範囲においてじわじわと冷やされることです。これは長距離走行時の最大の問題です。
この問題は透湿性のあるゴアテックスアウターや、高機能素材を使った高価な山用・作業用のミドルウェアやインナーウェアで対策できますが、人によっては根本的な解決が見込めません。
あくまでも人によってはですが、夜間の長時間走行においては多少マシになる程度です。透湿・保水能力はいずれ限界に達します。
汗や蒸気を出しやすい方には、原始的ですが非常に効果的な解決策として、定期的な換気で対応する手があります。
たとえばゴールドウインの一部のジャケットがこのアイデアを形にしています。
このジャケットは着用したまま、背面のベンチレーション開閉を操作できるドローコードが着いています。
頻繁な内部の排湿が可能なので、ミドル~インナーの保水能力に頼ることなく、簡単に汗冷え対策を可能にしています。
ゴールドウインの凄いところは、ライダーにとって本当に防寒に必要なものが何なのか熟知していることです。
汗冷え対策を考慮した防寒の組み合わせ例
ミドルウェア・・・チタンシンサレートや光電子インナージャケット
インナーウェア・・・メリノウールインナー・ジオライン等、吸汗拡散性に優れたインナー
汗冷えにはひとつ大きな落とし穴があります。
極寒というほどでもないのに汗冷えに悩む場合です。
胴体部分だけ、過剰な厚着をしてしまい、単純に暑すぎるだけの場合は脱ぐしかありません。
どこか我慢できないほど凍えている場所がありませんか?
冷たさを感じる場所があたたかくなるように工夫する必要があります。
十分な保温がなされている場所はレベルを落とす対策が必要です。
さらにもうひとつ、特殊な状況があります。
汗冷えが、手のひら、脇の下、足の裏といった局部的な発汗が原因の場合、広義では体質、細かく言えば心のあり方、生活自体などの問題が考えられます。
この場合防寒具に頼らない、別の対応が求められます。
思い当たる方はこちらの汗冷え対策の解説ページをご覧ください。
インナーの基礎知識(種類と特徴)
インナーは登山用が機能的にも優れ、評価も高いのですが高価になりがちです。
作業着系は機能面では優れており、コストパフォーマンスも高いのでオススメです。
ファッション・アパレル系のものは、高機能をうたっているものでも、生地が薄く防寒に適さない物が多いので注意が必要です。
個人的に思うことですが、極寒のライディングにおいてインナーとミドルウェアの間に着る「ミドルインナー」と呼ばれるものが使い方によっては非常に効果的だと感じています。
あくまで極寒期に限りますが、アウター内部に着こむ枚数が増えると動きにくさもでてきますが、インナーウェアに十分な暑さをもつものを選び、薄手で防風性のあるミッドインナーをタイトに着こむことで、非常に高い防寒性を実感しています。
オールシーズンジャケットでも中に着こむ工夫で極寒の夜間高速道路を問題なく走行できました。
2016年の冬にフィールドテストを実施しました。詳しくはこちらをご覧ください。
起毛インナー(高保温性)
両面起毛のものは特に保温力が高い反面、吸汗拡散性に難がある為、汗をあまりかかない前提での使用に限り非常に効果があります。
起毛インナーはファストファッションブランドやホームセンターで売られている発熱系インナーより防寒性能に優れています。
汗冷え対策の必要のない短距離メインなら作業着屋さんなどで1、2枚まとめて購入するのがオススメです。
メリノウールインナー(吸汗拡散・保温性)
吸汗拡散性の高いメリノウール素材は、吸収した汗を繊維内部にため込み、繊維表面は濡らさない性質から、汗と皮膚の直接接触を少なくすることで汗冷えを防いでくれる高機能天然素材です。
ウール系は昔から愛用者の多い、防寒インナーの主役的高機能インナーです。
ただし、厚手のものを選ばないと保温性は起毛インナーに劣る場合があります。
普通の起毛インナーで汗冷えが気になる場合に、試してみる価値があります。
発熱系インナー
夏場、汗の気化熱が体の表面から結構な熱を奪うのと同様、蒸気を水に変換する際の吸着熱による発熱もバカになりません。
ただし、ユニクロのノーマルヒートテック程度の薄手の物は、街中の歩行程度なら問題ありませんが、バイク用途としては保温・蓄熱性に難があります。
薄手の発熱系インナーはライダーの防寒対策としては役不足になりがちです。
もし発熱系を選ぶなら、はじめからブレスサーモ等の極寒登山用か、コストパフォーマンスも考慮するなら厚手のヒートテック、エクストラウォームあたりから試してみるのがオススメです。
画像:Amazon – Mizuno ブレスサーモ ヘビーウェイト
速乾インナー
吸汗拡散能力の高いインナーは繊維内部で汗を吸い、体を濡らさずにウェア表面で汗を気化させることで汗冷えを防いでいます。
ところが、速乾インナーは皮膚に近いところで水分を気化させる為、体の表面を冷やします。
汗をかかない状況なら保温性が少ない分、防寒対策としては不利です。
汗をかく状況では体を冷やすため、防寒具としての利点はありません。