荷物さえ沢山積めればツアラーなのか?
ここは、はじめてのバイク選びでSSやスポーツネイキッド、ストリートファイターや軽量オフローダーを選んだけど、ツーリングにハマってしまい、なんとか愛車を長距離ツーリングを快適にできる方法を模索している迷えるライダーの為のページです。
バイク選びでよくこんな悩みを聞きます。
峠とサーキット走行をメインで考えてるんですけど、主体はやっぱりツーリングだし・・・何買えばラクになれますかね?
選ぶのも楽しみのひとつなのだから、悩みたいだけ悩めばいいよーこの幸せ者めっ♪
なんて言いつつ
「できれば最新のスーパースポーツ買ってください。そしてちょっと乗らせてね」
なんて付け加える。そんな軽口がおそらく日本全国で毎日のように交わされているものと思います。
欲しいバイクを手に入れ、ほくほく顔のライダーを見るのも楽しいものです。
でも実際にそのバイクが生活に組み込まれてみて、初めて気が付くこともあります。
「峠を渡り歩くツーリング最高!でも積載性が悪すぎて宿泊はちょっと現実的で無い(ショボーン)」
てな感じの事を多くの方が考え、悩みを抱えているようです。
多くのライダーが積載性向上を目的にキャリアやトップケースを付けてみたり、荷物満載の巨大なファブリックのシートバックを無理くりバイクにくくりつけてみたり。
荷物さえ積めれば満足ならそれでも良いのですけれど、せっかく軽快な足回りを持っているスーパースポーツやネイキッドなのだから、スポーツ走行の楽しさを残しつつツアラー化を目指せないものでしょうか?
単純にSSやネイキッドに大型トップケースやシートバッグを装着し、荷物を満載したらどうなるのか?
リアの重心が必要以上に上方へあがってしまい、直進安定性と旋回中の安定性や倒しこみ時の挙動に不安感をもたらす可能性があります。
さらに後ろが重くなったことで、前方へ荷重をかけようとして前傾を強めてしまうライダーも。姿勢はよりキツくなってしまいます。
その上柔らかいシートバッグは左右に振り回されることでしなり、気持ちよく倒し込めないことも。
パッセンジャーシート上の巨大なシートバックはバイクの姿勢変化の影響をモロに受けてしなります。それに不快感を感じる敏感な方もいるようです。
気にしすぎだと言えばそれまでですが、本格的なツアラーは荷物を積んでいても快適なワインディング走行をある程度想定してきちんと作られています。(※車種にもよります)
ドゥカティのムルティストラーダ、ヤマハのFJR1300、ホンダのCB1300SBなどのスポーツ性能を重視したツアラー寄りのモデルが、どれほどの能力を秘めているのか、あえてここでは語りませんが、タイトな峠道においてもバイク歴数年ほどの方が乗ったSSよりも、タンデムで荷物を満載した上記のモデルを乗っているベテランライダーの方が速いといったこともそれほど珍しいことではありません。
残念ながら愛車をいくらツアラー化しても、本格的なツアラーには快適性や安定性で及ばないかもしれません。
本格的なツアラーと同等の積載性と快適性を求めだすと正直かなり骨の折れる仕事です。
しかしちゃんと具体的なイメージを持ってツアラー化すれば、限りなく近いものは作り上げることは不可能ではないかもしれません。
このページでは、ツアラー化する際に気を付けるべきポイントをいくつか紹介します。
ツアラー化は昔から多くのライダーが試みるカスタムです。針の穴を通すようなバランスの難しい難所が控えていますが、要点をおさえた上で愛車を快適なツアラーに仕上げてみてください!
ポイント1.荷物の積載はまずパニアケースから
ツアラー化したいと思ったら最初に何をするべきか、それは自分のイメージしているツアラーの姿に近いバイクを観察することです。ツアラーとして高い評価を受けているモデルの特徴には類似点もおおいですから。
ここでは例として2車種を上げてみます。下の写真はBMWのK1200RSとホンダのDeauvilleです。
BMW K1200RS with factory panniers / brewbooks
Honda Deauville – Grey / WorldWideMotorcycles
まずはパニアケース(振り分けバッグ)に注目してみましょう。
最初に目に付くのは、ケース本体が可能な限り車体の下の方に設置されていることです。
理由は明白です。重心を下げると、中の荷物が動いても走っている車体に影響を与えにくいからです。これがトップケースだとどうでしょう?
テコの原理でタイヤの接地面から遠いトップケース内の荷物は車体に大きな力を加えてしまいます。ロングスパンのツーリングでの快適性と積載性を本気で考えるなら、トップケースよりも先にサイドパニアを検討しましょう。
重いものより軽いもの、ソフトバッグよりもハードケース、横に厚いものより薄いものの方が車体への影響は小さくて済みます。
実は積載による重量増はツーリングライダーにとって良い影響もあります。
低重心化と重量増は多くの車種において走行時の安定性を与えます。
すぐに体感できることは低速旋回時の安定感です。
しかし重量配分が大きく変わってしまうと別の問題もでてきますので、サスペンションの再セッティングが必要です。これはポイント3でも取り上げていますのでここでは割愛いたします。
万一、愛車に合ったパニアケースのフィッティングがない場合は、ワンオフで制作することができます。悩んだらまずはいきつけのショップや専門業者に相談してみましょう。
パニアとの相性が悪いバイクもあります。アップマフラータイプのバイクの場合、小振りなパニアを付けて横幅が広がりすぎるようなら、見栄えや使い勝手に問題が起こるかもしれません。その場合パニアは早々に諦め、トップケース、シートバッグ、タンクバッグの組み合わせで検討した方が良い場合があります。
パニアを選ぶ前に!車種専用フィッティングが必要パニアケース付けようと思ったら、まずは専用のパニアホルダーと呼ばれるフィッティングがあるかどうかを調べる必要があります。
パニアケースを車体に取り付ける為のステーのことです。GIVIやクーケースといった箱メーカーが車種専用品を出していれば比較的簡単にパニアケースの装着が可能。
もし専用フィッティングの設定がなければ、こちらで紹介しているような、ワンオフステーを製作している業者に相談する必要があります。
箱メーカーが設定する専用フィッティングより高額になってしまいますが、本格的なものをしっかり作ってもらえるので安心です。
ポイント2.防風性能の向上
カウルのある車種ならより大きなスクリーンを、ネイキッドならビキニカウル等を取り付けることで対応が可能です。
高速等で長距離を走るときに風はライダーを疲労させます。
数分程度ならそんな振動は我慢できますが、1時間も激しく体を揺らされると奪われる体力が大きく、とても快適な旅とは言えなくなります。
ツーリングで高速を多用するライダーなら、風ごときとは言わず風対策はしっかり対処したい問題です。
特に冬場0~5℃と気温が低いとき、防風性能の有無はウィンタージャケットやウェアの枚数に影響します。どのくらい違いがあるのかはぜひご自身で体感してみてください。
BMWのツアラーとネイキッド等で乗り比べる機会があれば一度経験しておくことをオススメします。びっくりすると思いますよ。あまりの違いに。
足下の寒風や雨の吹き込みにはアンダーカウルが有効な場合があります。
効果は付けてみないと分からないので特にオススメはしませんが、もしお困りで打つ手がない場合検討してみるのも良いかと思います。
ツアラー化するなら大型スクリーンやビキニカウルは基本です!
本気でツアラー化を望むのなら、風対策は基本です。長距離を楽しく走るためにはライダーが疲れにくいことが非常に重要です。
風に無防備ネイキッドならなおのこと走行風による疲労はバカにできません。
大型スクリーンやビキニカウルといった小型のカウルがあるだけで疲労度が全然違ってきます。外観に余程のコダワリがないかぎり、装着をオススメします。
気に入ったデザインのものを見つけましょう!
ポイント3.ライディングポジションと車体姿勢の問題を解決する
愛車に本来付いていないパニアケース等の重量物が付いてくるのですから、本来ならリアのバネ自体を強くしたいところですが、パッセンジャーシートの付いている市販車の場合、もともと硬めのバネが付いていることがほとんどです。
いきなり手間のかかる手術から手を付けるのではなく、まずはポジションの見直し、リアのプリロードと減衰圧調整という手軽な処置でツアラー化できるところまでやってみましょう。
1.ライディングポジションの変更
必要なければする必要はありませんが、長距離ツーリングに合わせてアップライトなポジションにしたい方は、サスペンションを調整する前にやってしまいましょう。
ハンドルやハンドルポストをアフターマーケットの部品に交換したり、シートの座面を下げて相対的に上体が起きるように調整することで今よりアップライトなポジションに変えることができます。
また高速道路の利用などで長距離を走行する場合、バックステップ等でステップを上げていると、ひどく足を疲労させることがあります。
ノーマルステップに戻したり、アエラ等から標準よりも下げるタイプのステップが販売されているので、こちらも検討してみましょう。
長距離になるほど恩恵があるハンドルアップスペーサーハンドルを上に移動させる場合、ハンドル本体を変えてしまう方法は面倒くさいのでオススメしません。
大幅(5cm以上)にハンドル位置を上げようとすると、ほぼブレーキラインやワイヤー類まで交換する必要がでてきます。
それよりも、ノーマルのハンドル位置を上げる「ハンドルアップスペーサー」や「ハンドルポストスペーサー」といったものがオススメです。
アップできる量は2~3cm程度と小さいですが、それでも十分に効果を体感できますし、ハンドルに付いている物をそのまま使える場合が多く、分解・組み立ての手間もありません。
気に入らなければ気軽に外せますしね。
気になる方は、車種専用品をまずは探してみましょう!
Amazon : ハンドルアップスペーサーで検索
Amazon : ハンドルポストで検索
2.シート高の調整(あんこ抜き)
スーパースポーツでは難しいですが、ネイキッド等ならシートのアンコ抜きを行うことで乗車姿勢を調整することもできます。
アンコ抜きはシートのウレタンを削り、足つき性の改善を目的によく行われる手法です。基本的に今お持ちのシートを業者で加工してもらうのが一般的です。
しかし、単にあんこ抜きするのはあまり面白くありません。ウレタンが薄くなると乗り心地が悪化する可能性もありますから、せっかくですしここでひと工夫考えてみましょう。
たとえば、アンコ抜きと同時に振動対策も兼ねてゲルザブ(振動吸収体)を仕込む、冬の寒さ対策にシートヒーターを内蔵する等、あなたのツーリングスタイルに合わせて高度なカスタムを楽しむのもいいかもしれません。
どうせ張り替えるのなら、それほど大きな出費にはなりませんし
ワンランク上の快適性を目指してみましょう。
3.リアサスの調整
バネのプリロードを調整できる場合、初期荷重(イニシャルプリロード)はリアを上げる方向で調整します。車高が上がる方向です。
プリロードは主に車高を調整するために使われます。(実際には荷物や人が実際に搭乗した際にリアサスは伸びることも縮むこともできる位置になるよう調整するところです)
なんて書いてみましたが誤解を招きかねないので、ちょっとだけプリロードの説明をします。
リアサスが一番沈んだときと一番伸びたときの幅を「サスペンショントラベル」といいます。ロードモデルの場合リアサスペンションのトラベルは110~140mmくらいしかありません。
荷物を載せてライダーが乗車したときに、この範囲の中でサスの伸びしろと縮みしろを何mmずつに割り振るのかを調整するのがプリロードの本来の調整項目です。
積載が増えるとリアサスは沈みます。つまりリアサスの残りの縮みしろが減り、伸びしろが増えます。
だからイニシャルプリロードを増やすことでリアサスの縮みしろを増やし、伸びしろを減らす調整を行ってバランスを取るのです。
このプリロードを調整するとほかにもいくつかの副次的な効果をもたらします。
第一に、ほぼすべての車種においてプリロードをかけると車高が上がります。
第二に、すべてのバイクというわけではないですが、バネが固くなることがあります。
ここで「ん?」とひっかかる方もいると思いますが、このページは圧縮コイルばねの解説ページではないので割愛します。スルーしてください。
プリロードを過剰にかけることで「バネレートが最大約2割ほど上がり、反発力が強まることがあり得る」とだけ覚えておいてください。
減衰圧の調整も行いますが、これは実際に積載した際のフィーリングを重視してください。積載して過度なスポーツ走行しませんよね? 乗り心重視、ギャップ通過時の快適さを重視して伸び側の調整をしてやれば十分かと思います。
ある程度整備ができる方なら、ピボット周りの剛性を見直すとツアラーとしての乗り心地を与えやすくなるかもしれません。
車種によりピボットシャフトの締め付けトルクを調整することで曲げやすくなったり、神経質なハンドリングになったり。
この調整のメリットとデメリットを理解している方なら面白いものができるかもしれませんね。
レーサーに乗ったことがある方なら日常調整の範囲ですが、ピボットの締結トルクを意識したことのない方は決してこの調整には手を出さないでください。
なのであえて具体的なやり方は書きません。
4.フロントフォークの調整
リアサスを調整できない車体の場合、フロントフォークの突き出し量を調整して、せめて姿勢だけでも調整してやることでハンドリングの悪影響を改善できる可能性があります。
フロントの突き出しやイニシャルは経験上、操縦性能にけっこう影響を与えます。大きく変えたりせず、少しずつ調整してみましょう。
リアサスにイニシャルや伸び側だけでも減衰圧調整できる車種の場合、フロントはあまり大幅にセッティングを変えなくてもいいかもしれません。
積載やタンデムの際に負荷が激変するのはリア側です。
主にピボットやリアサスペンション、リアタイヤは顕著です。
まずは、ツアラー化の目標となる積載量の決定、リアサスのセッティングをある程度固めてから、あなたの実用速度のペースに合わせてフロントをいじるという順番で詰めていけばいいと思います。
ポイント4.エンジンフィーリングの調整
姿勢や重量増の問題が満足のいくレベルまで解決したら、エンジンフィールにも手を加えてみましょう。
ECUで燃調マップを書き換えたり、マフラーの交換、クランクケース内圧コントロールバルブ等、微調整の部類ではありますがフィーリングを変える事が可能です。アクセルを開けた際に過敏に反応するバイクよりは多少ダルい反応の方がツーリング向きと言えます。
4気筒車が2気筒、単気筒のフィーリングに変化するような調整はできません。どんなに手を入れても4気筒車はあくまで4気筒車のフィーリング。これは微調整の範囲内だということを忘れずに。
用途に合わせて特性を変えるのはデチューンとは言いません。チューニングとは日本語で調律です。ここまでしっかりと手を加えてやれば、あなたの愛車は本格ツアラーに近い状態になっているはず!
番外.困ったら誰かに相談しよう!
上記のポイントをしっかり検討する為には愛車のセッティングや普段の状態についてよく理解しておくことが必要になってきます。
しかし、知識が少なくても誰かに教えてもらったとしても、愛車をツアラー化できればいいわけですから、必要に応じて専門家に相談することも忘れず。
株式会社モトコ
ワンオフでキャリアやマウントを制作。
有限会社スクーデリアオクムラ
サスペンション専門家。リアサスのオーバーホールでも有名。
以前に比べ、快適性を求めるライダーが増えてきました。技術的に進歩しているからこそですが、二輪車においてはある程度の妥協も必要です。
スーパースポーツでもこのページで紹介させていただいた方法を用いれば確かにツーリングは快適になります。少なくともノーマルの状態よりは。
しかしサーキットや峠での運動性能や軽快さは影を潜め、スーパースポーツならではの優位性はすで消えてしまっています。
バイクカスタムは1を足して2を引く行為です。ツアラー化をフルコースで行えば必ずネガティブな影響も発生します。
たとえばこの記事の中ではパニアを推奨していますが、これが最悪の一手となることもあります。
パニアに重量物の載せたため、バンク角が減ってしまいコーナーでバイクを倒せません。パニアや沈み込んだ車体が接地することもあります。
重心が下がり過ぎて軽快にバイクを寝かすことができなくなります。SSなのに倒しこみのダルいハンドリングになることも。
嫌な話ですが何が起こるのか、実際にやってみないことには判りません。
ホレこんで買った愛車をツアラー化するのもひとつの方法ですが、自分にとってツーリングがもっとも重要なものだと思ったのなら、思い切ってツアラー寄りのモデルに買い替えることが一番の近道であることを忘れないでください。